第1回

ネクストSDGsとして注目されるSWGsとは何か

目次

―人・社会・地球のウェルビーイングから考える、これからの企業経営―

はじめに

近年、企業経営において「サステナビリティ」や「SDGs」という言葉は、特別なものではなくなりました。環境への配慮、脱炭素、地域社会への貢献、多様性の尊重、働きがいのある職場づくりなど、多くの企業が何らかの形でSDGsに関わる取り組みを進めています。

一方で、SDGsの達成期限である2030年が近づく中、いま新たに問われ始めていることがあります。

それは、「SDGsの次に、私たちは何を目指すのか」という問いです。

この問いに対する一つの考え方として注目されているのが、SWGs、すなわちSustainable Well-being Goalsです。日本語では「持続可能なウェルビーイング目標」と訳されることがあります。

SWGsは、現時点で国連が正式に採択した国際目標ではありません。しかし、SDGsに続く国際アジェンダの候補として、人、社会、地球のウェルビーイングを統合的に捉え、次世代により良い未来を残していこうとする構想として注目されています。

今回から全5回にわたり、ネクストSDGsとして注目されるSWGsの考え方を出発点に、なぜ企業に人的資本経営の導入が不可欠なのかを考えていきます。

第1回では、SWGsが注目される背景と、SDGsからSWGsへと視点が広がる意味について整理します。第2回では、人的資本経営とは何かをわかりやすく解説します。第3回では、SWGsと人的資本経営がなぜ深くつながるのかを掘り下げます。第4回では、企業が人的資本経営を導入するために何から始めるべきかを具体的に考えます。そして第5回では、人的資本経営を一過性の取り組みで終わらせず、企業価値向上につなげるための実践ポイントを整理します。

この連載でお伝えしたい中心メッセージは、とてもシンプルです。

これからのサステナビリティ経営は、環境対応や社会貢献だけでは成立しません。企業が持続可能であり続けるためには、そこで働く人が自分の力を発揮し、成長し、幸せを実感しながら、組織や社会に価値を生み出していくことが必要です。

そのための経営の考え方こそが、人的資本経営なのです。

▪️SDGsが企業経営にもたらした大きな変化

まず、SDGsについて振り返ってみましょう。

SDGsは、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」であり、2030年までに達成を目指す17の目標から構成されています。貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー、エネルギー、働きがい、気候変動など、世界が直面するさまざまな課題を、国や企業、市民社会が共通して取り組むべき目標として示したものです。

SDGsが果たした大きな役割は、社会課題を「見える化」したことにあります。

それまで企業活動と社会課題は、別々のものとして捉えられがちでした。企業は利益を生み出す存在であり、社会課題の解決は行政やNPOなどが担うものだと考えられることも少なくありませんでした。

しかしSDGsによって、企業が自社の事業を通じて社会課題の解決に貢献すること、そして社会課題への対応が企業価値に結びつくことが広く認識されるようになりました。

たとえば、省エネルギーに取り組むことは、気候変動対策であると同時に、コスト削減にもつながります。働きやすい職場づくりは、社員の定着や採用力の向上にもつながります。地域社会への貢献は、企業の信頼やブランド価値を高めることにもつながります。

このようにSDGsは、企業が「社会の中でどのような存在であるべきか」を考えるきっかけを与えました。

▪️SDGsの広がりとともに見えてきた課題

一方で、SDGsの取り組みが広がるにつれて、課題も見えてきました。

たとえば、SDGsのロゴを掲げているものの、実際の経営や事業活動とのつながりが弱いケースです。既存の取り組みを17目標に当てはめただけで、経営の変革につながっていないケースもあります。

また、外向きの発信はしているものの、社内で働く社員の実感や行動変容に結びついていないケースもあります。

もちろん、SDGsに取り組むこと自体が悪いわけではありません。むしろSDGsは、これからも重要な共通言語であり続けます。しかし、2030年が近づく今、企業には「やっているように見える取り組み」から、「実際に人や社会や地球のより良い状態を生み出す取り組み」へと進化することが求められています。

つまり、これからの企業には、SDGsを掲げるだけではなく、その取り組みが社員、顧客、地域、社会、次世代にどのような価値をもたらしているのかを問う姿勢が必要なのです。

▪️SWGsとは何か

そこで注目されるのが、SWGsの視点です。

SWGsは、Sustainable Well-being Goalsの略であり、人、社会、地球のウェルビーイングを統合的に捉える考え方です。

ウェルビーイングとは、単に健康であることや、経済的に豊かであることだけを意味するものではありません。心身が満たされ、自分らしく生きることができ、周囲との良い関係性があり、将来に希望を持てる状態を含む、より広い意味での「よく生きる状態」を指します。

SWGsの考え方では、人のウェルビーイング、社会のウェルビーイング、地球のウェルビーイングを一体として考えます。

人のウェルビーイングとは、現役世代だけでなく、将来世代も含めて、主観的にも客観的にも充実した状態であることです。

社会のウェルビーイングとは、地域固有の文化や経済が尊重され、活力があり、平和な状態であることです。

地球のウェルビーイングとは、環境保全や自然との共生を基軸にした持続可能な状態であることです。

ここで重要なのは、SWGsがSDGsを否定するものではないということです。SDGsが「負の遺産を次世代に残さない」ことを重視してきたとすれば、SWGsはそこからさらに一歩進み、「正の遺産を次世代に残す」ことを目指す考え方だと言えます。

つまり、環境破壊を減らす、差別をなくす、貧困を解消するというマイナスを減らす発想に加えて、より良い社会、より良い働き方、より良い生き方を積極的に創り出していこうという視点が加わっているのです。

▪️SWGsは企業経営に何を問いかけているのか

では、このSWGsの考え方は企業経営とどのようにつながるのでしょうか。

企業は、社会や地域や地球環境に影響を与える存在です。同時に、企業は多くの人が働き、成長し、人生の大きな時間を過ごす場所でもあります。

企業が持続可能であるためには、売上や利益を上げるだけではなく、そこで働く人が健やかに、前向きに、能力を発揮できる状態をつくることが欠かせません。

どれだけ立派なサステナビリティ方針を掲げても、現場で働く社員が疲弊していれば、その方針は実行されません。どれだけ環境配慮型の商品を開発しようとしても、新しい価値を生み出す人材が育っていなければ、事業は続きません。どれだけ地域貢献を掲げても、社員が自社に誇りを持てなければ、その活動は一過性のものに終わってしまいます。

つまり、企業にとってSWGsを考える入口は、まず「自社で働く人のウェルビーイングをどう高めるか」にあります。

そして、その具体的な経営の考え方が人的資本経営です。

▪️SWGsと人的資本経営の接点

人的資本経営とは、人材を単なる労働力やコストとして見るのではなく、価値を生み出す資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

従来、多くの企業では、人件費はできるだけ抑えるべきコストとして捉えられてきました。もちろん、経営においてコスト管理は重要です。しかし、人への投資を単なる費用としてしか見ていないと、教育、育成、キャリア支援、働きやすい環境づくりは後回しになります。

その結果、社員が育たない、管理職が疲弊する、若手が定着しない、ベテランの経験が継承されないといった問題が起こります。

これからの企業経営では、人にかけるお金や時間を「消費」ではなく「投資」として捉える必要があります。

社員が学び、成長し、仕事に意味を見出し、自分の力を発揮できるようになれば、それは新たな商品やサービス、顧客満足、業務改善、組織力の向上につながります。

つまり、人への投資は、企業の未来をつくる投資なのです。

SWGsの時代に企業が問われるのは、「社会に良いことをしているか」だけではありません。「社員にとって良い会社であるか」「社員が成長し、幸せを実感しながら、社会に価値を生み出せる会社であるか」が問われます。

▪️第1回のまとめ

今回は、ネクストSDGsとして注目されるSWGsの背景と、企業経営との関係について考えてきました。

SDGsは、企業が社会課題と向き合うための重要な共通言語となりました。一方で、2030年が近づく今、企業にはSDGsを掲げるだけではなく、実際に人、社会、地球のより良い状態を生み出しているかが問われています。

その中で注目されるSWGsは、人、社会、地球のウェルビーイングを統合的に考える視点です。企業にとっては、社員のウェルビーイングを高め、社員の成長を企業価値や社会価値につなげていくことが重要になります。

そして、その実践の中心にあるのが人的資本経営です。

これからのサステナブル経営は、環境対応だけでは完結しません。社会貢献だけでも十分ではありません。そこで働く人が自分の力を発揮し、成長し、幸せを実感しながら、社会に価値を生み出していくこと。その循環をつくることが、これからの企業に求められる経営なのです。

次回予告

次回は、「人的資本経営とは何か」について深掘りします。

人的資本経営は、単に「人を大切にする経営」ではありません。人材をコストではなく資本として捉え、その価値を最大限に引き出し、企業の中長期的な成長につなげていく経営の考え方です。

なぜ今、人的資本経営がこれほど重視されているのか。従来の人事管理と何が違うのか。中小企業にとっても本当に必要なのか。

第2回では、人的資本経営の基本をわかりやすく整理していきます。


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