第3回キャリア支援を人的資本経営・サステナブル経営に実装する― 社員の成長と企業の持続可能性をつなぐために ―

目次


目次

  1. 人的資本経営としてのキャリア支援
  2. キャリア支援は、採用力・定着力にもつながる
  3. キャリア支援を経営指標に落とし込む
  4. 中小企業こそキャリア支援が重要である理由
  5. サステナブル経営としての実装ステップ
  6. 第3回のまとめ
  7. キャリア形成支援にお悩みの企業様へ

1.人的資本経営としてのキャリア支援

第1回では、サステナブル経営において社員のキャリア支援がなぜ必要なのかを考えました。第2回では、キャリア支援を個人任せにせず、企業内の仕組みとして整えていくことの重要性をお伝えしました。

最終回となる今回は、キャリア支援を人的資本経営やサステナブル経営の実践として、どのように経営に組み込んでいくのかを考えていきます。

人的資本経営とは、人材を単なる労働力やコストとして捉えるのではなく、企業価値を生み出す重要な資本として捉え、その価値を最大限に引き出していく経営の考え方です。

この考え方に立つと、社員のキャリア支援は、単なる福利厚生や人事施策ではなくなります。社員一人ひとりが自分の強みや経験を理解し、これからどのような役割を担い、どのように成長していくのかを考えることは、企業の人材戦略そのものに関わるテーマになります。

企業が持続的に成長していくためには、経営戦略と人材戦略を連動させることが欠かせません。どのような事業を伸ばしていくのか。どのような顧客価値を生み出すのか。そのために、どのような人材が必要なのか。いま社内にいる社員の経験や能力を、どのように活かしていくのか。

これらをつなげて考えるうえで、社員のキャリア支援は重要な役割を果たします。

社員のキャリアを支援することは、社員個人の将来を考えるだけではありません。企業として、今いる人材の可能性を把握し、育成し、事業の未来に向けて活かしていく取り組みでもあるのです。

2.キャリア支援は、採用力・定着力にもつながる

キャリア支援は、社内の人材育成だけでなく、採用力や定着力にも大きく関わります。

現在、多くの企業が人材確保に課題を抱えています。特に中小企業においては、採用市場で大企業と同じ条件で競争することが難しい場合もあります。その中で求職者に選ばれる企業になるためには、「この会社で働くことで、自分はどのように成長できるのか」が見えることが重要です。

給与や休日などの条件面ももちろん大切です。しかし、それだけではなく、自分の経験を活かせるか。新しい力を身につけられるか。長く働く中で役割を広げていけるか。こうした点は、働く人にとって企業を選ぶ重要な判断材料になります。

つまり、キャリア支援の仕組みがある企業は、社員に対して「あなたの成長を会社として支えます」というメッセージを発信していることになります。

これは、既存社員の定着にもつながります。

若手社員は、将来の成長イメージが見えることで、仕事への意味づけをしやすくなります。中堅社員は、自分の強みや次の役割を再確認することで、停滞感から抜け出しやすくなります。ミドル・シニア層は、これまでの経験を今後どのように活かすのかを考えることで、新たな役割を見出しやすくなります。

離職の背景には、処遇や人間関係だけでなく、「この先が見えない」「成長している実感がない」「自分の役割がわからない」といったキャリア上の不安が隠れていることがあります。

だからこそ、企業が社員のキャリアに向き合うことは、人材の定着や組織の活性化にもつながるのです。

3.キャリア支援を経営指標に落とし込む

キャリア支援を人的資本経営やサステナブル経営の一部として実装するためには、取り組みを実施するだけでなく、経営指標として見える化していくことも重要です。

「キャリア研修を実施した」「面談の場を設けた」という事実だけでは、その取り組みが企業の成長につながっているかどうかはわかりません。大切なのは、社員の成長や組織の変化にどのような影響が出ているのかを確認することです。

たとえば、キャリア面談の実施率、キャリア研修の受講率、社員エンゲージメントの変化、若手社員の定着率、管理職によるキャリア面談の実施状況、社内公募や異動希望制度の活用件数、リスキリング受講後の業務活用状況などが考えられます。

これらの指標は、単なる数字の管理ではありません。企業が社員の成長をどのように支援し、その結果として組織にどのような変化が生まれているのかを把握するためのものです。

もちろん、キャリア支援の成果はすぐに数字に表れるものばかりではありません。社員の意識の変化や、上司との対話の質の向上、自分の役割に対する納得感など、定性的な変化も重要です。

そのため、定量指標と定性情報の両方を組み合わせて確認することが大切です。

たとえば、研修後のアンケートだけでなく、数か月後に行動の変化を確認する。面談の実施件数だけでなく、社員がどのような気づきを得たのかを把握する。離職率だけでなく、離職につながりそうな不安や停滞感を早めに捉える。

このように、キャリア支援を経営指標と結びつけることで、人材育成を感覚論で終わらせず、経営の改善につなげることができます。

4.中小企業こそキャリア支援が重要である理由

キャリア支援というと、大企業が行うものという印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、本当に必要なのは、むしろ中小企業かもしれません。

中小企業では、一人ひとりの社員が担う役割が大きく、個人の成長や離職が経営に与える影響も大きくなります。限られた人員の中で事業を継続し、顧客に価値を提供し続けるためには、今いる社員の力を最大限に引き出すことが欠かせません。

採用が難しい時代においては、不足する人材を外から補うだけでは限界があります。もちろん採用活動は重要ですが、それと同時に、今いる社員がどのように成長し、どのように役割を広げ、どのように会社の未来を支えていくのかを考える必要があります。

中小企業の強みは、経営者と社員の距離が近いことです。社員一人ひとりの顔が見えやすく、本人の経験や思いを把握しやすい環境があります。この強みを活かせば、大企業よりも柔軟で実感のあるキャリア支援を行うことができます。

たとえば、社員の強みを活かして新しい業務を任せる。ベテラン社員の経験を若手育成に活かす。中堅社員に業務改善や新規プロジェクトの役割を与える。本人の希望や適性を踏まえて、役割を少しずつ広げていく。

こうした取り組みは、大きな制度がなくても始めることができます。

重要なのは、社員のキャリアを本人任せにせず、企業として向き合う姿勢を持つことです。中小企業にとってキャリア支援は、社員のためだけではなく、事業継続力を高めるための重要な経営施策なのです。

5.サステナブル経営としての実装ステップ

では、キャリア支援をサステナブル経営の実践として進めるには、どのようなステップが必要でしょうか。

まず第一に、経営方針として「人材をどう活かすか」を明確にすることです。どのような会社を目指すのか。そのために、社員にどのような成長や役割を期待するのか。経営者自身がこの考えを言葉にすることが出発点になります。

第二に、社員のキャリア課題を把握することです。若手、中堅、管理職、ミドル・シニアなど、年代や役割によって課題は異なります。どの層にどのような不安や停滞感があるのかを把握することで、必要な支援が見えてきます。

第三に、キャリア研修、キャリア面談、1on1、配置、育成を連動させることです。研修だけ、面談だけ、制度だけでは十分ではありません。社員が自分のキャリアを考え、それを上司や会社との対話につなげ、実際の仕事や役割に反映していく流れが必要です。

第四に、取り組みを指標化することです。面談実施率、研修受講率、定着率、エンゲージメント、リスキリング後の活用状況などを確認しながら、取り組みの効果を見ていきます。

第五に、結果を経営会議や人材戦略の見直しに活かすことです。キャリア支援で見えてきた社員の声や組織課題は、経営にとって重要な情報です。それを人事部門だけに留めず、経営の意思決定に活かすことが大切です。

このように進めることで、キャリア支援は単発の施策ではなく、企業の持続可能性を高める仕組みになっていきます。

6.第3回のまとめ

社員のキャリア支援は、社員に優しい会社づくりのためだけに行うものではありません。

社員一人ひとりの経験や強みを引き出し、成長を支え、その力を企業の価値創造につなげていく取り組みです。これは、人的資本経営の実践であり、サステナブル経営を支える重要な土台でもあります。

企業が持続可能であるためには、事業そのものが変化に対応できることが必要です。そして、事業が変化に対応するためには、そこで働く人が学び、成長し、役割を更新し続けることが必要です。

キャリア支援とは、社員の過去を振り返るだけのものではありません。社員と企業が、ともに未来を考えるための対話です。

これからの企業には、「人を大切にする」という理念を掲げるだけでなく、それを仕組みとして実装することが求められます。

社員が自分の可能性に気づき、会社の中で役割を見出し、成長し続けることができる。企業はその力を事業の発展や組織の活性化につなげていく。

その循環をつくることこそ、これからのサステナブル経営におけるキャリア支援の本質です。

人が育つ企業は、変化に強い企業です。
人が活きる企業は、選ばれる企業です。
そして、人の可能性を経営に活かせる企業こそ、持続可能な企業です。

全3回にわたり、サステナブル経営における社員のキャリア支援について考えてきました。環境対応や社会貢献と同じように、社員の成長を支えることも、企業の未来をつくる大切な取り組みです。

これからの時代、社員のキャリア支援を経営の中心に据える企業こそ、人から選ばれ、社会から信頼され、持続的に価値を生み出し続ける企業になっていくのではないでしょうか。

キャリア形成支援にお悩みの企業様へ

一般社団法人さいたまサステナブル経営研究所では、サステナブル経営や人的資本経営の導入支援だけでなく、企業におけるキャリア形成支援にも力を入れています。

「若手社員がなかなか定着しない」
「社員が自分の将来像を描けていない」
「中堅社員の成長実感が薄れている」
「シニア人材の経験や強みを活かしきれていない」
「1on1や面談を行っているものの、育成や定着につながっていない」

このようなお悩みは、決して個別の問題ではありません。採用、定着、育成、管理職の関わり方、シニア人材の活躍などは、すべてつながっています。だからこそ、社員一人ひとりのキャリア自律を支援しながら、企業として人材をどう活かしていくのかを整理し、仕組みとして整えていくことが重要です。

当研究所では、全従業員向けのキャリア研修やキャリア面談、希望者への1on1支援、経営層へのフィードバックなどを通じて、個人のキャリア形成と組織の人材戦略をつなげる支援を行っています。また、シニア層向けには、これまでの経験や強みを棚卸しし、今後の役割や貢献の形を言語化する研修も行っています。さらに、管理職向けには、1on1を形だけで終わらせず、部下の成長を支える育成型マネジメントへ転換するための研修・伴走支援も可能です。

キャリア支援は、社員個人のためだけの取り組みではありません。離職リスクの把握、主体性やエンゲージメントの向上、配置・育成施策への接続、世代を超えた組織の連携づくりにもつながる、重要な経営施策です。

「何から始めればよいかわからない」
「自社に合う進め方を相談したい」
「まずは課題を整理したい」

そのような段階でも構いません。貴社の状況に合わせて、無理なく始められる支援の形をご提案いたします。

社員の成長を、企業の持続可能な成長につなげたいとお考えの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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