第2回|AI時代、人は何を担うのか?-「人にしかできないこと」を探す前に、考えたいことー

目次

はじめに

AIによって、私たちの仕事はどう変わっていくのでしょうか。

前回は、「AIに仕事は奪われるのか」という問いから、AIによって仕事に何が起きているのかを考えました。

そこで見えてきたのは、AIによる仕事の変化は、単に「仕事がなくなるかどうか」だけでは捉えられないということです。

AIが人の作業を代替する。

人の仕事を補完する。

人とAIの役割分担が変わり、仕事が再設計される。

そして、新しい仕事や役割が生まれる可能性もある。

一つの仕事の中でも、こうした変化が同時に起こり得ます。

では、仕事の中身が変わるとき、人は何を担うのでしょうか。

AI時代の人の役割については、

「創造性が重要になる」

「コミュニケーションは人にしかできない」

「最終的な判断は人が行う」

といったことがよく言われます。

確かに、こうした役割は現在の企業活動でも重要です。

しかし、AIの能力が変化し続けるなかで、将来も「人にしかできないこと」をあらかじめ決めるのは難しいのではないでしょうか。

そこで今回は、

「AIに何ができないのか」ではなく、「AIができることが増えるなかで、人は何を担うのか」

という問いから考えてみたいと思います。 さらに、その変化が私たちのキャリアのつくり方にどのような影響を与えるのかについても考えていきます。

AIが入ると、人が時間を使う場所が変わる

例えば、企業への提案書を作成する仕事を考えてみます。

これまでは、担当者が情報を集め、整理し、課題を考え、提案内容を検討し、資料を作成していました。

その後、関係者と調整し、顧客へ説明する。

こうした一連の仕事を、人が担ってきました。

しかし、現在では、情報収集や文章作成、アイデア出し、資料のたたき台づくりなど、多くの作業をAIが支援できます。

では、その分だけ人の仕事が減るのでしょうか。

必ずしも、そうとは限りません。

例えば、資料作成に使っていた時間が短くなれば、その時間を別の仕事に使うことができます。

顧客の課題をより深く考える。

複数の提案を比較する。

関係者と話し合う。

提案内容が本当に顧客に合っているのかを検討する。

このように、AIが仕事の一部を担うことで、人が時間を使う場所が変わる可能性があります。

ただし、AIによって生まれた時間が、自動的にこうした仕事へ振り向けられるわけではありません。

これまでと同じ仕事を、ただ短い時間で終わらせるだけになる場合もあります。

AIによって何ができるようになったかだけではなく、その結果、人は何に時間を使うようになったのか。 そこにも目を向ける必要があります。

人が担う仕事を「3つの領域」から考える

では、AIが仕事に入るとき、人は具体的に何を担うのでしょうか。

研究レポートNo.005では、現在の企業実務を踏まえ、人が担う役割を3つの領域から整理しています。

※【研究レポートNo. 005】は弊社ホームページをご覧ください➡ https://saitama-suslab.com/report/

① 仕事を定める

何を課題として扱うのか。

何を目指すのか。

複数の選択肢から何を選ぶのか。

仕事の目的や方向を考え、判断する領域です。

② 仕事を動かす

誰が何を担うのか。

どこをAIに任せるのか。

関係者とどのように調整し、仕事を進めるのか。

人とAIの役割を考えながら、仕事を実際に動かしていく領域です。

③ 結果を引き受ける

AIの出力をどう確認するのか。

最終的に何を決定するのか。

その結果について、誰が責任を担うのか。

仕事の結果を評価し、意思決定と責任を明確にする領域です。

ここで注意したいのは、この3つを「AIにはできない、人間だけの仕事」として整理しているわけではないことです。

AIが関与できる範囲は、これからも変わる可能性があります。

あくまで、AIが仕事に入り始めた現在の企業実務において、人が担っている役割を整理したものです。 では、この3つの領域を、もう少し具体的に考えてみましょう。

答えを出す前に、「何を問うのか」

AIは、多くの情報を短時間で整理し、さまざまな選択肢を提示できます。

例えば、

「社員の離職を減らすための施策を考えてください」

とAIに聞けば、さまざまな施策が提示されるでしょう。

給与や福利厚生の見直し。

1on1の実施。

キャリア支援。

管理職研修。

職場環境の改善。

こうした提案の中には、実際に有効なものもあるかもしれません。

しかし、その前に考えたいことがあります。

そもそも、その会社では何が問題なのでしょうか。

離職率が高いことなのか。

特定の部署で人が辞めていることなのか。

若手社員が育っていないことなのか。

管理職に負担が集中していることなのか。

それとも、社員が会社に残っていても、十分に力を発揮できていないことなのでしょうか。

問題の捉え方によって、必要な施策は変わります。

もし問題設定そのものが適切でなければ、AIがどれだけ優れた回答を提示しても、企業にとって有効な施策につながらない可能性があります。

AIによって「答え」を得やすくなるほど、その前にある「何を問うのか」が重要になる。 これは、AI時代の仕事を考えるうえで、一つの大切な視点だと思います。

選ぶこと、そして結果を引き受けること

AIが複数の選択肢を提示できるようになると、仕事は楽になるのでしょうか。

確かに、情報を集めたり、案を考えたりする負担は軽くなるかもしれません。

一方で、選択肢が増えるほど、何を選ぶのかという問題も生まれます。

例えば、企業が新しい事業を検討するとします。

AIが複数の事業案を提示したとしても、すべてを実行できるわけではありません。

短期的な利益を優先するのか。

長期的な成長を重視するのか。

既存事業との関係をどう考えるのか。

人材や資金をどこに配分するのか。

こうしたことを考えながら、企業として選択していく必要があります。

そして、何を選ぶのかには、その企業の価値観や戦略が表れます。

もう一つ重要なのが、結果に対する責任です。

AIが作成した資料。

AIが行った分析。

AIが提示した判断材料。

それらを利用したとしても、企業活動の中では、「AIがそう言ったから」というだけでは説明できない場面があります。

誰が内容を確認したのか。

誰がその情報を採用したのか。

誰が最終的に決定したのか。

これは、経営判断だけでなく、品質管理や内部統制、リスク管理などにも関わる問題です。 AIが仕事に関わるようになるほど、AIが何をしたかだけではなく、人がどこで判断し、誰が結果を引き受けるのかを明確にする必要があります。

「AIを使う」から、「AIを含めて仕事を設計する」へ

ここまで、人が担う役割について考えてきました。

もう一つ、今後重要になる可能性があるのが、仕事そのものを設計することです。

これまでは、

「自分がこの仕事をどう進めるか」

を考えることが中心だったかもしれません。

しかし、AIが仕事に入るようになると、考えることが増えます。

どこまで自分で行うのか。

どこをAIに任せるのか。

AIの出力をどの段階で確認するのか。

人と人との対話や調整を、どこに残すのか。

そして、AIによって生まれた時間を何に使うのか。

例えば、提案書の作成時間が半分になったとします。

その時間を使って、提案書を2倍作成することもできるでしょう。

一方で、顧客との対話を増やし、提案の質を高めることも考えられます。

どちらが適切なのかは、仕事の目的や企業の状況によって異なります。

大切なのは、AIを使うこと自体を目的にしないことです。

AIを使う能力から、AIを含めて仕事を設計する能力へ。

AIによって仕事が変わるなかで、人に求められる役割も広がる可能性があります。

そして、この変化は、一つひとつの仕事だけで終わるものではありません。 仕事の中身が変われば、「自分はこれから何を仕事にするのか」というキャリアの問いにもつながります。

AIによって「自分にできること」の範囲が変わる

これまで、自分のキャリアを考えるときには、

「自分にはどのような経験があるのか」

「どのような専門性があるのか」

「どのようなスキルを持っているのか」

といったことが重要な前提になってきました。

もちろん、これからも経験や専門性は重要です。

しかし、AIを仕事に組み込めるようになると、少し違った可能性が生まれます。

例えば、文章作成を専門としていない人が、AIを使って情報を整理し、一定水準の文章を作成する。

デザインの専門家ではない人が、自分のアイデアを視覚化する。

プログラマーではない人が、AIの支援を受けながら簡単なツールをつくる。

これまで語学力の制約から難しかった海外情報へのアクセスが、容易になる。

こうしたことが、すでに可能になり始めています。

もちろん、AIを使えば誰でも専門家と同じ仕事ができるという意味ではありません。

むしろ、経験や専門性があるからこそ、AIの出力を適切に評価し、活用できる場合もあります。

それでも、

「自分一人でできること」と「AIと組み合わせればできること」の間には、違いが生まれています。

これは、キャリアを考えるうえでも重要な変化です。

これまでの経験や能力を前提に、次の仕事を考えるだけではなく、自分の経験や専門性とAIを組み合わせることで、どのような仕事ができるのか。 そのような視点も必要になってくるのではないでしょうか。

「キャリア自律」から、「キャリア創造」へ

AIが登場する以前から、キャリアをめぐる考え方は変化してきました。

会社が用意した役職や職務を順番に経験するだけではなく、自分自身でキャリアを考え、選択していく。

いわゆる「キャリア自律」の重要性が指摘されてきました。

また、キャリア研究では、働く人が自らの仕事やキャリアに主体的に働きかける考え方も積み重ねられています。

例えば、Job Crafting(ジョブ・クラフティング)は、与えられた仕事をそのまま行うだけではなく、仕事の内容や人との関係などを主体的につくり変えていくことに注目した考え方です。

Career Crafting(キャリア・クラフティング)は、さらに長期的なキャリアについて、自らの価値観や目標に合うよう主体的に働きかけることを捉えています。

こうした考え方を踏まえ、研究レポートNo.005では、AI時代のキャリアについて、一つの仮説を提示しています。

それが、

「キャリア自律から、キャリア創造へ」

という考え方です。

ここでいう「キャリア創造」は、すでに確立された新しいキャリア理論を意味するものではありません。

これまでの研究を踏まえながら、AIによって自分にできることの範囲が広がる時代に、キャリアを考えるための当研究所の仮説です。

キャリア自律が、自分のキャリアを自分で考え、選択することを重視するのであれば、キャリア創造では、そこからさらに、自分が担う仕事や役割そのものをつくり出す可能性に目を向けます。

例えば、AIによって生まれた時間を使い、これまで担当していなかった業務に取り組む。

自分の専門性とAIを組み合わせ、新しいサービスを考える。

顧客との関わり方を変え、新しい役割を担う。

会社の中で、これまでになかった仕事を提案する。

こうしたことも、キャリア創造の一つの姿と考えられます。

転職や独立、起業だけを意味するものではありません。

会社から与えられた仕事の中でキャリアを考えるだけではなく、自分が担う仕事そのものをつくっていく。 AIは、その可能性を広げる道具にもなり得るのではないでしょうか。

AIはキャリアを広げるのか、能力形成を弱めるのか

ただし、AIによってキャリアの可能性が広がると、単純に考えることもできません。

ここには、もう一つ注意すべき点があります。

それは、

AIによって仕事ができるようになることと、その人自身に能力が蓄積されることは同じではない

ということです。

例えば、調査や分析、文章作成をAIに任せれば、短時間で一定水準の成果物をつくれるかもしれません。

しかし、その過程で、本来経験していた「調べる」「考える」「試す」「失敗する」「修正する」といった機会まで減るとすれば、長期的な能力形成には別の影響が生じます。

一方で、AIを壁打ち相手として利用することで、自分では思いつかなかった視点に触れたり、試行錯誤の回数を増やしたりすることもできます。

AIによって学びが深まる可能性もあるわけです。

つまり、AIには、能力を拡張する可能性と、能力形成の機会を減らす可能性の両方があります。

近年では、生成AIの利用とJob Craftingとの関係についても研究が始まっています。

こうした研究は、AIを単なる効率化の道具としてだけではなく、働く人が自らの仕事の進め方や役割をつくり変えるための道具として捉える視点にもつながります。

重要なのは、

AIを使っているかどうかだけではなく、AIを使って自分の仕事をどう変えているのか。

そして、その過程で自分自身が何を学び、どのような経験を積んでいるのかということです。 AIができることが増えるほど、仕事の成果だけではなく、人の成長についても考える必要があるのではないでしょうか。

ただし、AIによってキャリアの可能性が広がると、単純に考えることもできません。

ここには、もう一つ注意すべき点があります。

それは、

AIによって仕事ができるようになることと、その人自身に能力が蓄積されることは同じではない

ということです。

例えば、調査や分析、文章作成をAIに任せれば、短時間で一定水準の成果物をつくれるかもしれません。

しかし、その過程で、本来経験していた「調べる」「考える」「試す」「失敗する」「修正する」といった機会まで減るとすれば、長期的な能力形成には別の影響が生じます。

一方で、AIを壁打ち相手として利用することで、自分では思いつかなかった視点に触れたり、試行錯誤の回数を増やしたりすることもできます。

AIによって学びが深まる可能性もあるわけです。

つまり、AIには、能力を拡張する可能性と、能力形成の機会を減らす可能性の両方があります。

近年では、生成AIの利用とJob Craftingとの関係についても研究が始まっています。

こうした研究は、AIを単なる効率化の道具としてだけではなく、働く人が自らの仕事の進め方や役割をつくり変えるための道具として捉える視点にもつながります。

重要なのは、

AIを使っているかどうかだけではなく、AIを使って自分の仕事をどう変えているのか。

そして、その過程で自分自身が何を学び、どのような経験を積んでいるのかということです。 AIができることが増えるほど、仕事の成果だけではなく、人の成長についても考える必要があるのではないでしょうか。

今回のまとめ

今回は、AI時代に人は何を担うのか、そしてAIによってキャリアのつくり方はどう変わるのかを考えてきました。

AIの能力が変化し続けるなかで、「人にしかできないこと」をあらかじめ決めるのは難しいかもしれません。

そこで、現在の企業実務を踏まえ、人が担う役割を3つの領域から考えました。

仕事を定めること。

仕事を動かすこと。

そして、結果を引き受けること。

さらに、AIを使うことだけではなく、AIを含めて仕事そのものを設計するという視点も取り上げました。

そして、仕事の変化は、キャリアの変化にもつながります。

AIによって「自分にできること」の範囲が変わるのであれば、自分の経験や専門性とAIを組み合わせ、新しい仕事や役割をつくることも考えられます。

その可能性を、今回は「キャリア自律から、キャリア創造へ」という視点から考えました。

ただし、AIによって仕事ができるようになることと、人が成長することは同じではありません。

AIをどのように使い、どのような経験を積み、何を自分自身の力として身につけていくのか。 そこまで考えることが重要です。

あなたの会社ではどうでしょうか?

□ AIをどこに使い、人が何を担うのかを考えていますか。

□ AIが提示した答えを使う前に、何を課題として扱うべきかを考えていますか。

□ AIによって生まれた時間を、新しい仕事や価値につなげていますか。

□ AIの活用が、社員の経験や能力形成にどのような影響を与えるかを考えていますか。

ここまで考えてくると、AI時代の人の役割やキャリアは、個人だけの問題ではないことが見えてきます。

人が新しい仕事を担おうとしても、その機会がなければ実現できません。

AIを使いながら成長しようとしても、学ぶ機会や経験を積む環境がなければ難しいでしょう。

また、AIとの向き合い方は、若手、中堅、管理職、シニアなど、それぞれの経験や役割によっても異なる可能性があります。

では、そうした変化のなかで、企業は何を考え、どのような環境をつくっていく必要があるのでしょうか。

そして、AIによって仕事が効率化されることは、働く人にとっての豊かさにもつながるのでしょうか。

最終回となる第3回では、視点を個人から企業・組織へと広げ、AI時代の人と組織のあり方について考えていきます。

研究レポートNo.005「AI時代、人は何を担うのか」

本ブログは、当研究所が公開している研究レポートNo.005をもとに構成しています。人が担う仕事の3つの領域、キャリア創造に関する考え方や先行研究の詳細は、本編をご覧ください。

研究レポートはこちら
https://saitama-suslab.com/report/

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次