はじめに
ここまで2回にわたって、人材定着と離職について考えてきました。
第1回では、「退職理由」だけでは、人が会社を離れる背景までは見えないこと。
そして、「会社に残っている」という事実と、「この会社で働き続けたい」という思いも、必ずしも同じではないことを考えました。
第2回では、人が離れる前に、組織が社員に何を求め、それをどのように支え、働く人がそれをどう経験しているのかを考えました。
さらに、組織を良くしようとして高い基準を示すことと、そこへ人や組織が近づいていく過程を支えることは、別の仕事であることも見てきました。
では、人材定着について考えるとき、最終的に何を見ればよいのでしょうか。
離職率を下げること。
できるだけ長く働いてもらうこと。
もちろん、それらが重要な場合もあります。
しかし、「人が辞めない」という結果だけを目指してしまうと、その背景にあるものを見落としてしまうかもしれません。
最終回では、
「残る/離れる」という現象を通して、人と組織の関係を見つめ直す というところまで考えてみたいと思います。
同じ「残る」でも、その背景は違う
会社に残っている人を考えてみます。
ある人は、
「この会社で働きたい」
「この仕事を続けたい」
「ここなら成長できる」
と感じながら働いているかもしれません。
一方で、
「辞めたい気持ちはあるが、今は転職できない」
「生活を考えると、環境を変えるのは難しい」
「ほかに選択肢が見つからない」
と考えながら残っている人もいるかもしれません。
どちらも、会社から見れば「在籍している社員」です。
離職率という数字だけを見れば、その違いは表れません。
しかし、その人と組織との関係は同じでしょうか。
「会社に残っている」という事実と、「この会社で働き続けたい」という思いは、必ずしも同じではありません。
だからこそ、人材定着を見るときには、「何人残っているか」だけでなく、
「なぜ、その人は残っているのか」 まで見る必要があります。
同じ「離れる」でも、その意味は違う
会社を離れる人についても同じです。
職場での負担や人間関係などから、
「ここには居続けられない」
と感じて離れる人もいるでしょう。
一方で、
「新しい仕事に挑戦したい」
「違う環境で自分の力を試したい」
「実現したいキャリアがある」
と考えて、次の環境へ進む人もいます。
どちらも、会社から見れば「離職」です。
しかし、その意味は同じではありません。
もちろん、企業にとって人が離れることには、さまざまな影響があります。
だからといって、すべての離職を「悪いこと」と捉える必要はありません。
大切なのは、
「離れた」という結果だけではなく、「なぜ離れたのか」を見ること。 そして、その背景にある人と組織との関係を考えることです。
「残る/離れる」を4つの状態から考える
ここまでの話を整理するために、研究レポートNo.003では、「残る/離れる」という現象を4つの状態から考えています。
※【研究レポートNo. 003】は弊社ホームページをご覧ください➡ https://saitama-suslab.com/report/
主体的定着
「ここで働きたいから、残る」
消極的残留
「辞めたい気持ちはあるが、今は辞められない」
前向きな離職
「次へ進むために、離れる」
苦しい離職
「ここには居続けられないから、離れる」
ここで注意したいのは、人を4つのタイプに分類することが目的ではないということです。
「主体的定着だから良い」
「苦しい離職だから悪い」
と、人を評価するためのものでもありません。
実際には、
会社には愛着があるけれど、今後のキャリアには迷っている。
仕事にはやりがいを感じているけれど、働き方には負担を感じている。
転職を考えているけれど、今の職場にも残りたい理由がある。
といったように、複数の気持ちが重なっていることもあります。
そして、その状態は時間とともに変化します。
だからこそ、この4つの状態は、人を分類するためではなく、
「なぜ、この人は残っているのだろう」
「なぜ、この人は離れたのだろう」
と、その背景を考えるための一つの視点です。
大切なのは、
「残ったか、辞めたか」だけではなく、「なぜ残っているのか、なぜ離れたのか」を見ること。 そこから、人と組織との関係を考えていくことです。
「ここで働きたい」と思える関係とは
では、人が「ここで働きたい」と感じる背景には、何があるのでしょうか。
給与や福利厚生。
仕事内容。
働き方。
もちろん、こうした条件も重要です。
一方で、人が組織に残る背景については、仕事や組織とのさまざまな「つながり」から考える視点もあります。
Job Embeddedness(ジョブ・エンベデッドネス)では、人が組織にとどまる背景を、
Links(つながり)
職場の人間関係や、仕事を通じたさまざまなつながり。
Fit(適合)
自分の価値観や能力、将来像と、仕事や組織との合い方。
Sacrifice(失うもの)
組織を離れることで失うもの。
といった視点から捉えています。
ここから分かるのは、人が会社に残る理由は、一つではないということです。
仕事内容に意味を感じている。
一緒に働きたい人がいる。
自分の力を発揮できている。
この会社での将来を描くことができる。
これまで築いてきた関係を大切にしたい。
さまざまなものが重なり、「ここで働きたい」という思いにつながることがあります。
人材定着を考えるときには、「辞める理由」を減らすだけではなく、
「ここで働きたいと思える理由があるか」 という視点も必要なのではないでしょうか。
人材定着を考える「5つの問い」
では、自社の人材定着について考えるとき、何に目を向ければよいのでしょうか。
研究レポートNo.003では、最後に5つの問いを整理しています。
① 私たちは、社員に何を求めているのか
成果、自律、挑戦、変化への対応。
組織が社員に求めていることは何でしょうか。
そして、その期待は働く人に伝わっているでしょうか。
② その要求に見合う支えがあるか
高い成果を求めるのであれば、それを実現するための時間や人員があるか。
新しい役割を求めるのであれば、学ぶ機会があるか。
自律を求めるのであれば、必要な裁量があるか。
「求めること」と「支えること」の両方を見る問いです。
③ 自分の判断を持ち、それを表現できているか
会議で意見が出ない。
何をするにも上司へ確認する。
新しい提案が出てこない。
それを本人の「主体性」だけの問題と捉えず、自分で考え、判断し、それを表現できる環境になっているかを考えます。
④ 社員は、なぜここに残っているのか
「ここで働きたい」からなのか。
それとも、「今は辞められない」からなのか。
辞めた人だけではなく、今いる人にも目を向けます。
⑤ 誰かが離れたとき、私たちは何を問い直すのか
退職者から聞いた理由だけで終わらせない。
同じような思いを抱えている人はいないか。
仕事の進め方はどうか。
上司と部下の関係はどうか。
組織が求めることと支えることのバランスはどうか。
大切なのは、退職者に「答え」を求めるのではなく、離職から「問い」を受け取ることです。
人材定着は、「人を辞めさせないこと」ではない
人材定着というテーマでは、
「どうすれば人が辞めなくなるのか」
という問いから考え始めることが多いかもしれません。
給与を上げる。
1on1を導入する。
研修を増やす。
キャリア支援の仕組みをつくる。
こうした施策が必要な場合もあります。
しかし、その前に考えたいことがあります。
今、自社では、人と組織との間で何が起きているのか。
組織は社員に何を求めているのか。
そのために何を支えているのか。
社員はそれをどのように経験しているのか。
なぜ人は残り、なぜ人は離れるのか。
人材定着を考える目的は、人を辞めさせないことではありません。
「残る/離れる」という現象を通して、人と組織の関係を見つめ直すこと。 そこから、自社に必要な次の一歩を考えていくことが重要だと、私たちは考えています。
今回のまとめ
全3回にわたって、人材定着と離職について考えてきました。
第1回では、「退職理由」や離職率という結果だけでは、その背景にある人と組織との関係までは見えないことを考えました。
第2回では、人が離れる前に、組織が何を求め、何を支え、それを働く人がどのように経験しているのかに目を向けました。
そして今回、「残る/離れる」という現象を、4つの状態や5つの問いから捉え直しました。
ここまでを通して見えてくるのは、
人材定着は、離職だけを見て考えるテーマではない
ということです。
辞めた人だけを見るのではなく、今いる人を見る。
本人の意識だけを見るのではなく、組織側の環境を見る。
施策があるかどうかだけではなく、それがどう経験されているかを見る。
「残った/辞めた」という結果だけではなく、その背景を見る。 そうすることで、人材定着というテーマから、自社の組織そのものが見えてくることがあります。
■あなたの会社ではどうでしょうか?
□ 「何人辞めたか」だけではなく、「なぜ残っているのか」にも目を向けていますか。
□ 社員に求めていることと、それを支える環境の両方を見ていますか。
□ 社員が自分の考えを持ち、それを表現できる環境になっていますか。
□ 誰かが離れたとき、その人の退職理由だけでなく、組織側にも問いを戻していますか。
考えてみましょう。―あなたの会社では今、人と組織との間で、何が起きているでしょうか。
自社の「組織の現在地」を見てみる
ここまで人材定着について考えてきました。
しかし、人が残る/離れる背景を考えていくと、人材定着だけを見ていても十分ではないことが分かります。
組織が目指している方向。
一人ひとりの役割。
仕事の進め方。
上司や同僚との関係。
対話のあり方。
人材育成の仕組み。
こうしたさまざまな要素が、人と組織との関係に影響しています。
だからこそ最後に考えてみたいのが、
「そもそも、自社の組織は今、どのような状態にあるのだろうか」
という問いです。
これは、私たちが研究レポートNo.001『地域企業 組織の現在地モデル』で考えてきたテーマでもあります。
※【研究レポートNo. 001】は弊社ホームページをご覧ください➡ https://saitama-suslab.com/report/
研究レポートNo.001をもとに、15問で自社の「組織の現在地」を確認できる簡易版セルフチェックをご用意しています。
これは、自社の組織を「良い/悪い」と評価するためのものではありません。
15の問いに答えながら、
「今、できていることは何か」
「少し気になるところはどこか」
「次に、何について話し合う必要があるか」
を考えるためのセルフチェックです。
今回のブログを読んで、
「自社ではどうだろう」
と少しでも感じた方は、ぜひ一度、自社の「組織の現在地」を確認してみてください。
▼ 組織の現在地アセスメント(15問版)▼
組織の現在地アセスメント〈15問版〉 ―「地域企業 組織の現在地モデル」実践ツール―
ご回答いただいた方には、内容を確認のうえ、
「現在地」「強み」「確認テーマ」を整理した診断レポート(フィードバック)
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※本アセスメントは、企業を評価することを目的としたものではありません。
組織の現在地を整理し、今後の対話や改善活動につなげるためのツールです。

