はじめに
AIによって、私たちの仕事はどこまで変わるのでしょうか。
最近では、生成AIを使って文章を作成したり、情報を整理したり、会議の内容を要約したりすることが、以前よりも身近になってきました。
少し前までは、人が時間をかけて行っていた作業を、AIが短時間で支援できる場面も増えています。
こうした変化を見ていると、
「これから、人の仕事はどうなるのだろう」
「AIによって、なくなる仕事が増えるのではないか」
と感じることもあるかもしれません。
実際、AIと仕事については、「どの職業がなくなるのか」「どの仕事がAIに置き換わるのか」といった議論が数多くあります。
しかし、ここで一度考えてみたいことがあります。
「AIにできることが増えた」ということと、「人の仕事がなくなる」ということは、本当に同じなのでしょうか。
今回から全3回にわたり、研究レポートNo.005「AI時代、人は何を担うのか」をもとに、AIによって変わる仕事、人の役割、キャリア、そして組織について考えていきます。 第1回では、まずAIによって仕事に何が起きているのかを、国内外の調査と企業の仕事を手がかりに見ていきたいと思います。
※【研究レポートNo. 005】は弊社ホームページをご覧ください➡ https://saitama-suslab.com/report/
AIは身近になった。しかし、企業の現場ではどうか
生成AIの進化は、非常に速いものがあります。
文章作成、翻訳、要約、画像生成、データ分析、プログラミングなど、AIが支援できる領域は広がり続けています。
一方で、企業の現場では、どこまでAIが使われているのでしょうか。
OECDが2025年に公表した日本の労働市場に関する調査では、職場でAIを利用している労働者は8.4%でした。
これは2024年に実施された調査に基づく数値です。
また、AI利用者のうち、AIによって仕事の成果や労働条件が改善したと回答した割合は、平均35.8%でした。
もちろん、その後もAIの普及は進んでいると考えられます。
それでも、この調査から見えてくるのは、AIの技術的な進歩と、働く人が実際にAIを利用している状況との間には、違いがあるということです。
企業側でもAI導入は進んでいます。
IPAの「DX動向2026」では、日本企業におけるAI導入の拡大が確認されています。
ただし、その効果は業務効率化や迅速化が中心であり、新しい価値の創出や事業そのものの変革には、さらに取り組む余地があることも示されています。
例えば、社員がAIを使ってメールや資料を作成している企業を考えてみます。
確かに、個々の作業は速くなっているかもしれません。
しかし、仕事の進め方や部署間の役割分担、人員配置などが以前と変わっていなければ、組織全体の仕事の構造まで変わったとは限りません。
つまり、
AIを導入していることと、AIによって仕事や組織が変わっていることは、同じではないのです。 AI活用の現在地を考えるときには、「導入したかどうか」だけではなく、「何に使い、その結果、何が変わったのか」を見る必要があります。
「AIにできる」と「AIが仕事をしている」は違う
では、AIの能力が高まっても、すぐに人の仕事がなくなるわけではないのは、なぜでしょうか。
研究レポートNo.005では、AIと仕事の関係を4つの段階に分けて整理しています。
① AIにできる
AIが、技術的にある作業を実行できる状態です。
② AIが使われる
人が実際の仕事でAIを利用している状態です。
③ 業務に組み込まれる
AIの利用が個人の作業にとどまらず、仕事のプロセスとして定着している状態です。
④ 仕事を代替する
AIが人の担っていたタスクの一部を引き受ける状態です。
※詳しくは研究レポートNo.005をご覧ください。
https://saitama-suslab.com/report/
例えば、AIが経費精算に必要な情報を読み取れるようになったとします。
しかし、それだけで企業の経費精算業務が自動化されるわけではありません。
社員が実際に利用できる仕組みが必要です。
社内の会計システムとの連携も必要かもしれません。
入力内容の確認や、例外的な取引への対応をどうするかも考えなければなりません。
そして、こうした仕組みが整ったとしても、経費精算に関わる仕事がすべてなくなるとは限りません。
AIによって一部の入力作業が減る一方で、確認や判断、例外対応など、人が担う仕事が残る場合もあります。
このように考えると、AIの能力が高まることと、企業の仕事が実際に変わることの間には、さまざまな条件があることが分かります。
AIの性能だけで仕事の変化が決まるわけではありません。
人がAIを使えること。
必要な情報やデータを利用できること。
仕事の進め方を変更できること。
そして、AIと人の役割を考え、組織として運用できること。AIによる仕事の変化には、技術だけではなく、人と組織のあり方が関係しているのです。
世界の「4人に1人」の仕事がなくなる?
AIと雇用については、さまざまな予測や調査が公表されています。
その一つが、ILO(国際労働機関)による2025年の分析です。
この分析では、世界の労働者のおよそ4人に1人が、生成AIによって何らかの影響を受ける可能性のある職業に就いていると推計されています。
「4人に1人」と聞くと、非常に大きな数字に感じるかもしれません。
しかし、これは「4人に1人の仕事がなくなる」という意味ではありません。
ILOは、生成AIによって仕事が影響を受ける可能性を「曝露(exposure)」という考え方で捉えています。
ここでいう曝露とは、その職業に含まれる仕事やタスクが、生成AIの影響を受ける可能性を示すものです。
実際に仕事がなくなることを意味しているわけではありません。
例えば、採用担当者の仕事を考えてみます。
採用担当者は、求人票を作成するだけではありません。
採用計画を考える。
応募者の情報を整理する。
面接する。
関係部署と調整する。
最終的な採用を判断する。
こうした複数の仕事を担っています。
AIによって求人票の作成が効率化されたとしても、それだけで採用担当者という職務がなくなるわけではありません。
一方で、AIが担える仕事の範囲が広がれば、採用担当者に求められる役割や必要な人数が変わる可能性はあります。
大切なのは、どちらか一方に決めつけないことです。
ILOによる2026年の実証研究レビューでも、生成AIによる生産性向上は確認され始めている一方、大規模な雇用喪失は現時点では限定的であり、長期的な影響については明確な結論が出ていません。
つまり、
「AIの影響を受けること」と「人が不要になること」は、分けて考える必要があります。 そして、職業という大きな単位だけではなく、その中にある一つひとつの仕事を見ることが重要になります。
AIが仕事にもたらす「4つの変化」
では、AIによって仕事にはどのような変化が起きるのでしょうか。
研究レポートNo.005では、仕事の変化を「代替」だけで捉えるのではなく、4つの視点から整理しています。
① 代替する
これまで人が行っていたタスクの一部を、AIが担うことです。
例えば、定型的な文章の作成やデータの整理などが考えられます。
② 補完する
AIが人の仕事を支援することです。
情報収集や分析をAIが支援することで、人がより多くの情報をもとに仕事を進められるようになる場合があります。
③ 再設計する
AIと人の役割分担が変わり、仕事の進め方そのものが変わることです。
例えば、書類作成に使っていた時間が減り、その分を顧客との対話や企画の検討に使うようになる場合です。
④ 新しく生み出す
AIによって、これまで難しかった仕事や新しい役割、事業が可能になることです。
例えば、専門人材や時間の制約から実施できなかった分析やサービスを、AIと組み合わせて実現することなどが考えられます。
ただし、新しい仕事や事業の創出が雇用全体にどの程度影響するかについては、まだ十分に分かっていません。
この4つは、必ずしも別々に起きるものではありません。
一つの仕事の中で、同時に起きる場合もあります。
例えば、企業への提案書を作成する仕事ではどうでしょうか。
情報収集や文章のたたき台をAIが担うことは、「代替」に近い変化です。
複数の提案案をAIに整理してもらうことは、「補完」と考えられます。
その結果、担当者が資料作成よりも顧客との対話や課題の検討に時間を使うようになれば、仕事の「再設計」が起きています。
さらに、これまで実施できなかった分析や新しい提案が可能になれば、仕事を「新しく生み出す」ことにもつながります。
このように、一つの仕事の中でも、AIによって複数の変化が起こり得ます。
AIによって仕事が丸ごとなくなるかどうかだけではなく、仕事の中で人とAIが担う場所がどう変わるのか。 その視点から考えることが必要ではないでしょうか。
「補完だから安心」とも言えない
ここまで見てくると、AIは人の仕事を補完するものだから、あまり心配する必要はないと感じるかもしれません。
しかし、それも少し違うように思います。
現在は人が担っている仕事でも、AIの能力が高まれば、将来はAIが担える範囲が広がる可能性があります。
また、仕事そのものが残ったとしても、その仕事に必要な人数が変わることも考えられます。
もう一つ、考えておきたいことがあります。
それは、人が仕事を覚える機会への影響です。
例えば、若手社員が先輩の指導を受けながら、資料作成や情報収集を繰り返していたとします。
そうした仕事を通じて、業務の基本や顧客の特徴、判断の仕方などを少しずつ学んできたかもしれません。
しかし、その作業をAIが担うようになれば、仕事は効率化される一方で、若手社員が経験を積む機会が変わる可能性があります。
もちろん、AIを使うことで新しい学習機会が生まれることも考えられます。
だからこそ、単に「作業が減ってよかった」と考えるだけでは十分ではありません。
仕事の進め方が変わるときには、人がどのように学び、経験を積み、成長していくのかも考える必要があります。 これは、AIの導入だけでなく、人材育成や組織のあり方にも関わる問題です。
今回のまとめ
今回は、「AIに仕事は奪われるのか」という問いから、AIによって仕事に何が起きているのかを考えてきました。
ここまでを整理すると、重要なのは次のことです。
AIにできることが増えることと、人の仕事がなくなることは同じではない。
AIの技術的な能力と、企業の現場での利用状況は分けて見る必要があります。
また、AIによる仕事の変化は、「代替」だけではありません。
「補完」「再設計」「新しく生み出す」という変化もあり、一つの仕事の中で複数の変化が同時に起きる可能性があります。
一方で、現在の状況だけから、将来も人の仕事はなくならないと断定することもできません。
AIの能力は変化しています。
企業の業務への組込みも、これから進んでいくでしょう。 だからこそ、将来の仕事がどうなるかを決めつけるのではなく、現時点で何が起きているのかを確認しながら考えていくことが大切です。
■ あなたの会社ではどうでしょうか?
- □ AIを導入したかどうかだけでなく、実際に仕事の何が変わったかを確認していますか。
- □ 一つの仕事を分解し、AIが担う部分と人が担う部分を考えていますか。
- □ AIによって生まれた時間を、次に何へ使うのか考えていますか。
- □ 業務の効率化だけでなく、人材育成や経験を積む機会への影響も考えていますか。
AIによって仕事がなくなるのか。
それは、企業にとっても、働く人にとっても重要な問いです。
しかし、もう一つ考えてみたいことがあります。
AIによって仕事の中身が変わるとき、その仕事の中で、人は何を担うのでしょうか。 次回は、この問いを中心に、AI時代における人の役割と、キャリアの変化について考えていきます。
研究レポートNo.005「AI時代、人は何を担うのか」
本ブログは、当研究所が公開している研究レポートNo.005をもとに構成しています。研究や調査の詳細、仕事の変化を整理した図解などは、本編をご覧ください。
研究レポートはこちら↓
https://saitama-suslab.com/report/

