キャリア支援を“個人任せ”にしない企業内の仕組みづくり― 社員の成長と企業の未来をつなぐ仕組みとは ―

目次

目次

  1. 1.キャリア支援が属人的になる企業の課題
  2. 2.企業内キャリア支援に必要な3つの柱
  3. 3.参考になる考え方:セルフ・キャリアドック
  4. 4.年代別に考えるキャリア支援のポイント
  5. 5.キャリア支援を制度で終わらせないために
  6. 6.第2回のまとめ
  7. お知らせ

1.キャリア支援が属人的になる企業の課題

前回は、サステナブル経営を進めるうえで、社員のキャリア支援が欠かせないことをお伝えしました。企業が持続的に成長していくためには、そこで働く人が自分の力を発揮し、学び続け、変化に対応できる状態をつくることが必要です。

しかし、実際の企業現場では、キャリア支援が十分に仕組み化されていないケースも少なくありません。

たとえば、部下のキャリアについて熱心に話を聴く上司もいれば、評価面談や業務進捗の確認だけで終わってしまう上司もいます。ある部署では日常的に将来の役割や成長課題について話し合われている一方で、別の部署ではそうした対話がほとんど行われていないこともあります。

このように、上司や部署によって支援の質に差が出てしまう状態は、キャリア支援が属人的になっている状態です。

もちろん、上司と部下の関係性の中で行われる対話は重要です。しかし、それだけに頼ってしまうと、社員がキャリアを考える機会は偶然に左右されてしまいます。よい上司に出会えた社員は成長のきっかけを得られる一方で、そうでない社員は自分の将来を考える機会を持てないまま、日々の業務に追われてしまいます。

また、キャリア支援が人事部門だけの取り組みになってしまうことも課題です。研修は実施しているものの、その後の上司との対話や配置、育成計画につながっていなければ、社員にとっては一度きりの学びで終わってしまいます。

キャリア支援を本当に企業の力に変えていくためには、個人の努力や一部の上司の熱意に任せるのではなく、企業全体の仕組みとして設計することが必要です。

2.企業内キャリア支援に必要な3つの柱

企業内でキャリア支援を仕組みとして根づかせるためには、大きく三つの柱が必要です。

一つ目は、社員が自分のキャリアを考える機会です。

多くの社員は、日々の業務に追われる中で、自分の経験や強み、今後の成長課題をじっくり振り返る時間を持てていません。だからこそ、企業側が節目ごとにキャリアを考える機会を用意することが大切です。

たとえば、入社数年目、リーダー登用前、管理職昇格時、育児や介護からの復職時、50代以降の役割見直しの時期など、社員のキャリアにはいくつかの節目があります。こうしたタイミングでキャリア研修を実施し、自分のこれまでを振り返り、これからの働き方や役割を考える機会をつくることが重要です。

二つ目は、キャリアを相談できる場です。

キャリアについて考える機会があっても、それを一人で整理することは簡単ではありません。自分では当たり前だと思っている経験が、実は大きな強みであることもあります。反対に、自分では気づいていない不安や思い込みが、成長の妨げになっていることもあります。

そのため、キャリアコンサルティング面談や1on1とは別の対話の場を設け、社員が安心して自分の考えを言葉にできる機会を用意することが有効です。特に、評価と切り離された対話の場は重要です。評価面談の場では、どうしても会社からどう見られるかを意識してしまい、本音を話しにくくなることがあります。

三つ目は、キャリアを活かす仕組みです。

研修や面談で見えてきた社員の強みや希望、成長課題を、その後の育成や配置、役割設計にどうつなげるかが重要です。キャリア支援は、話を聴いて終わりではありません。社員が自分の可能性に気づき、それを仕事の中で発揮できるようにするところまでつなげてこそ意味があります。

そのためには、人事部門、現場の管理職、経営層が連携し、社員の成長と企業の方向性を結びつける仕組みを持つ必要があります。

3.参考になる考え方:セルフ・キャリアドック

企業内キャリア支援を考えるうえで参考になるのが、厚生労働省が示しているセルフ・キャリアドックの考え方です。

セルフ・キャリアドックとは、企業が人材育成ビジョンや方針に基づき、キャリアコンサルティング面談とキャリア研修などを組み合わせ、体系的、定期的に従業員の主体的なキャリア形成を支援する企業内の仕組みです。

ここで重要なのは、単発の面談や研修ではなく、企業の人材育成方針に基づいて体系的に実施するという点です。

社員に対して「自分のキャリアを考えなさい」と伝えるだけでは、キャリア自律は進みません。企業として、どのような人材を育てたいのか、社員にどのような役割を期待しているのか、今後どのような力が必要になるのかを示したうえで、社員が自分のキャリアを考えられるようにすることが必要です。

セルフ・キャリアドックの考え方は、サステナブル経営における人的資本施策として非常に相性がよい取り組みです。なぜなら、社員の主体的なキャリア形成を支援しながら、企業にとっても人材育成上の課題を把握し、組織の活力を高めることにつながるからです。

4.年代別に考えるキャリア支援のポイント

キャリア支援は、すべての社員に同じ内容を提供すればよいというものではありません。年代や役割によって、必要な支援は異なります。

若手社員にとって重要なのは、仕事の意味づけと成長実感です。目の前の仕事が自分の成長や会社の未来にどうつながっているのかが見えることで、働く意義を感じやすくなります。若手の定着を考えるうえでも、早い段階からキャリアを考える機会を持つことは重要です。

中堅社員にとっては、これまでの経験を整理し、次の役割を考えることが大切です。現場の中心として成果を出すだけでなく、後輩育成、業務改善、専門性の深化、リーダーシップ発揮など、期待される役割は広がっていきます。中堅層が自分の強みと今後の方向性を再確認できると、組織全体の推進力も高まります。

管理職にとっては、自分自身のキャリアだけでなく、部下のキャリアを支援する力が求められます。これからの管理職には、業務を管理する力に加えて、部下の強みを見つけ、成長課題を共有し、挑戦の機会をつくる力が必要です。

ミドル・シニア層にとっては、経験の棚卸しと役割の再設計が重要です。長年培ってきた知識や経験を、これからの組織の中でどう活かすのかを考える機会が必要です。本人の納得感を高めるだけでなく、企業にとっても貴重な経験や知見を活用することにつながります。

5.キャリア支援を制度で終わらせないために

キャリア支援を社内制度として導入することは大切ですが、制度をつくるだけでは十分ではありません。大切なのは、その制度が日々のマネジメントや人材育成とつながっているかどうかです。

たとえば、キャリア研修を実施しても、上司がその内容を知らなければ、その後の対話にはつながりません。キャリア面談を行っても、そこで見えた課題が人材育成方針に反映されなければ、組織の改善にはつながりません。

また、社員が本音でキャリアを語るためには、安心して話せる環境も必要です。キャリア面談で話した内容が、本人の不利益につながるのではないかという不安があれば、社員は率直に話すことができません。個人情報やプライバシーに配慮しながら、個人の支援と組織課題の把握を切り分けることが重要です。

さらに、経営層がキャリア支援の意味を理解し、会社として人材をどう活かしていくのかを明確に示すことも欠かせません。社員のキャリア支援は、人事部門だけの仕事ではありません。経営戦略と人材戦略をつなぐ重要な経営テーマです。

制度をつくることがゴールではなく、社員の成長と企業の成長をつなげる運用を続けることが大切です。

6.第2回のまとめ

キャリア支援を個人任せにしている企業では、社員が自分の将来を考える機会も、上司と対話する機会も、偶然に左右されてしまいます。

だからこそ、企業はキャリア支援を一部の上司の熱意や人事部門の単発施策に任せるのではなく、企業内の仕組みとして設計する必要があります。

社員がキャリアを考える機会を持つこと。安心して相談できる場があること。そして、そこで見えてきた強みや課題を、育成、配置、役割設計につなげること。

この三つがつながって初めて、キャリア支援は社員個人の成長だけでなく、企業の持続的な成長にも結びつきます。

サステナブル経営におけるキャリア支援とは、社員に「自分で考えなさい」と任せきることではありません。企業の方向性と社員一人ひとりの成長をつなげ、互いに価値を生み出せる関係をつくることです。

次回は、このキャリア支援を人的資本経営、採用力、定着力、企業価値向上とどのように結びつけていくのかを考えていきます。

お知らせ

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