５者連携！「捨てる」を「育てる」に変えるスーパー・運搬業者・リサイクル企業・農業者・行政を結んだ循環の物語
目次
- ◆はじめに
- ◆それぞれの課題から始まった連携
- ◆動き出した「５者連携」
- ◆生まれた成果──「五方良し」の形
- ◆仕組みを支えたのは、現場の対話と調整
- ◆終わりに──「捨てる社会」から「活かす社会」へ
- ◆お知らせ
◆はじめに
食品廃棄物という言葉は、私たちの日常の裏側に潜む大きな課題です。
スーパーのバックヤードでは、形が悪く売れ残った野菜、加工の際に出る皮や切れ端など、さまざまな「食べられない食品」が毎日生まれています。一方で、地域の農家では土を肥やすための資材確保が課題になり、コスト負担も決して小さくはありません。
片方で捨てられているものが、片方では役に立つ資材として必要とされることがある。
この矛盾を解く鍵が「循環型社会」という視点でした。
北九州市では、この課題に対して、スーパー複数社、収集運搬事業者、リサイクル企業、農業者、そして行政が関わる仕組みが立ち上がりました。
それは単なる廃棄物処理スキームではなく、「循環」を見える形で地域に埋め込む取り組みでした。
◆それぞれの課題から始まった連携
地域のスーパーは日々の廃棄物をどう管理し、いかにコストを抑えるかが課題でした。食品ロスへの社会的な目線も高まり、店側としても廃棄物対応は避けられないテーマとなっていました。
収集運搬事業者は行政委託を中心とした事業構造が多く、継続性のある新たな仕事の創出は大きな関心事でした。
リサイクル企業は堆肥化設備を持っていても、安定的な原料回収や市場形成が欠かせません。
農業者もまた、土づくりや肥料コストの課題を抱えていました。
そして行政は、循環型社会モデルの構築が求められていました。
これらの課題が一本の線に結ばれた瞬間に、地域循環の可能性が浮かび上がったのです。
◆動き出した「５者連携」
仕組みづくりは、関係者を集めるだけで完成するものではありません。
立場も利益も異なる組織同士に共通目的を持たせるには、丁寧な合意形成が欠かせません。
北九州市は、制度設計や対話の場づくりを通じて、連携の「接着剤」の役割を果たしました。
行政が間に立つことで、スーパーは安心して取り組みに参加でき、収集運搬業者は新しいルート形成に挑戦することができ、リサイクル企業は設備稼働を確保でき、農業者は堆肥の提供を受けられる仕組みが整っていきました。
仕組みの最初の一歩は、「分別」でした。
なぜなら、スーパー側が丁寧に食品残渣を仕分けしなければ、その後のリサイクルが成り立たないからです。バックヤードの作業者も、「手間が増えるのでは」という懸念を抱えていましたが、目的と価値が明確になる中で協力が広がっていきました。
次に、収集運搬業者のルート再編が必要になりました。
従来の廃棄物収集と異なる回収ルートを設定し、リサイクル企業の処理施設まで確実に届ける仕組みがつくられました。
リサイクル企業では、食品残渣を発酵処理し堆肥に変える工程が日常業務として回り始めました。
そして、その堆肥は農家へと提供され、実際に畑で使われ始めました。
この一連の流れは、「捨てられるはずのものが、土を育て、農産物になる」という目に見える循環となり、関係者それぞれに価値が還元されていきました。
◆生まれた成果──「五方良し」の形
この連携は、単に廃棄物の量を減らすための取り組みではありません。
スーパーは処理コストの見直しにつながり、食品ロス削減の取り組みを外部にアピールできるようになります。
収集運搬業者にとっては、地域循環型の仕事が新しい事業領域となりました。
リサイクル企業は安定した原料供給によって施設運営の確実性が増し、資源価値を地域に戻す役割を担うことができました。
農業者は堆肥を活用することで土壌改善につながり、地域資源を活かした農業が実践されていきました。
そして行政は、循環型社会の実践例を政策として位置づけることができ、地域発の環境モデルとして対外発信が可能になりました。
このように、関係者全員にメリットがある「五方良し」の循環が実体化したのです。
◆仕組みを支えたのは、現場の対話と調整
モデルが成立するまでには、小さな軋轢や不安も積み重なりました。
スーパーでは「手間が増える」と言われ、運搬業者では「採算に合うのか」と懸念され、農家でも「堆肥の品質は大丈夫か」という不安がありました。
それらを解きほぐしたのは、制度だけではありません。
現場の担当者同士の対話や調整、課題の共有、ルールづくり、そして信頼の積み重ねでした。
「誰かの仕事が、誰かの価値になる」という実感が広がるにつれ、連携は単なるプロジェクトから、地域の仕組みへと変わっていきました。
◆今後の課題
食品残渣の分別徹底、堆肥の需要拡大、運営体制の維持など、課題は今もあります。
しかし、その都度関係者が議論し、改善が続いていることがモデルの強さです。
循環は「つくる」ものではなく、「育てる」ものだということが、この事例から見えてきます。
◆終わりに──「捨てる社会」から「活かす社会」へ
このモデルが示しているのは、仕組みの話であり、人の話でもあります。
食品廃棄物という“見えない課題”を前に、立場の異なる人々がつながり、挑戦し、循環を生み出しました。
資源循環は、制度だけでなく、現場の声と意志によって動きます。
ひとつの地域で芽生えたこの取り組みは、「捨てられるものを活かす社会」への道筋を照らしています。
そして、循環はこれからも続きます。
地域がつながり続ける限り、課題は資源へと姿を変えていくのです。
◆お知らせ
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