【自治体×中小企業（林業）×中小企業（協同組合等）】木質バイオマス熱供給・地域熱ネットワーク

◆はじめに

持続可能な社会の実現に向けて、地方自治体と地域企業の連携によるエネルギー循環の仕組みが全国各地で模索されています。特に森林資源を豊富に有する地域では、再生可能エネルギーとしての木質バイオマスの活用が注目されています。今回の事例は、人口約3,200人の小さな町でありながら、林業を基盤としたまちづくりを進めてきた町で、地域内の林業事業者やエネルギー事業者と連携し、木質バイオマスを活用した地域熱供給ネットワークを構築しました。本事例は、地域経済の自立と脱炭素社会の実現を両立する先進的なモデルとして高く評価されています。

本コラムでは、この北海道のとある町の取り組みを通じて、持続可能な地域エネルギーシステムの可能性を考察していきます。

◆参加企業・自治体紹介

🔼北海道のとある町
北海道北部に位置する森林資源の豊かな町で、町面積の約9割が森林です。古くから林業が町の基幹産業となっており、「森林未来都市」として循環型社会のモデルづくりを進めています。

🔼町内林業事業者
伐採から製材、再植林に至るまで、持続可能な森林経営を担う存在です。木質チップや未利用材の供給を通じて、バイオマスエネルギーの基盤を支えています。

🔼エネルギー事業者（協同組合・地域会社）
木質バイオマスボイラーの運転や熱供給サービスを担い、公共施設や民間施設への安定したエネルギー供給を実現しています。

◆コラボ背景と目的

この町がバイオマス活用に着手した背景には、2つの大きな課題がありました。

🔼第一に、森林資源の有効活用です。豊富な森林を有しながらも、未利用材や製材端材の多くが活かされず、地域内で価値を生み出せていませんでした。

🔼第二に、エネルギーの域外依存です。寒冷地である北海道では暖房需要が大きく、これまで石油など化石燃料に依存してきました。しかしその多くは町外から購入するため、資金が地域外に流出し、地域経済に還元されにくい状況が続いていました。

これらの課題を解決するために、町と事業者は「森林資源をエネルギーに変え、地域内で循環させる」という目的を共有し、木質バイオマスによる地域熱ネットワークづくりに乗り出したのです。

◆具体的な取り組み

🔼木材の伐採・供給
町内林業者が間伐材や未利用材を収集し、チップ化します。これがエネルギーの原料となります。

🔼熱供給拠点の整備
地域内にバイオマスボイラーを設置し、木質チップを燃料として熱を発生させます。

🔼地域熱ネットワークの運営
ボイラーでつくられた熱は配管を通じて公共施設や民間施設に供給され、暖房や給湯に利用されます。

🔼地域経済循環
燃料となる木材の伐採・運搬・チップ化・ボイラー運転までが町内事業者によって担われ、資金が地域内で循環します。

この仕組みによって、未利用材が資源となり、化石燃料依存を減らすことが可能になりました。

◆社会課題解決への効果

🔼脱炭素化の推進
化石燃料の使用削減により、CO₂排出量が大幅に減少しました。

🔼地域経済の活性化
燃料調達やエネルギー供給のプロセスを地域事業者が担うことで、雇用が生まれ、資金が域内に循環します。

🔼森林管理の適正化
間伐材の利用促進により、森林整備が進み、森林の健全性向上につながっています。

エネルギーの安定供給：石油価格変動に左右されにくい、安定した地域エネルギー供給体制を構築できました。

◆課題と展望

課題としては、ボイラー導入や配管整備など初期投資が大きい点、また長期的な運営に必要な人材確保が挙げられます。さらに、利用者拡大とコスト削減のバランスをどうとるかが重要です。

今後は、町内での熱需要拡大や他地域へのモデル展開、さらに電力供給との組み合わせによる「エネルギーの地産地消」の深化が期待されています。

◆まとめ

この町の木質バイオマス熱供給ネットワークは、地域資源を活用した循環型のエネルギーモデルです。自治体と地域事業者が一体となって構築したこの仕組みは、脱炭素化と地域経済の活性化を両立する可能性を示しています。小さな町だからこそ実現できた柔軟な協働の姿は、全国の地域エネルギーシステムの参考となるものです。