「週休3日とデジタル変革が生んだ奇跡」〜老舗旅館が10億円借金から大逆転した経営戦略と人事戦略〜

目次

  1. ◆企業概要
  2. ◆陣屋がサステナブル経営に取り組んだ背景
  3. ◆具体的取り組み内容
  4. ◆働き方改革と人材育成面での取り組み
  5. ◆その他の取り組み
  6. ◆サステナブル経営がもたらした人材面での効果
  7. ◆まとめ
  8. ◆お知らせ

◆企業概要


企業名:​株式会社陣屋
本社所在地:​神奈川県秦野市鶴巻北2-8-24
創業年月日:​1918年(大正7年)
資本金:1億円
従業員数:46名(正社員22名)
事業内容:​旅館業、宿泊・宴会・婚礼サービス・経営コンサルティング・宿泊事業向けDXソリューションの開発、販売などの提供

◆陣屋がサステナブル経営に取り組んだ背景


神奈川県秦野市にある創業100年を超える老舗旅館「元湯陣屋」。この旅館がサステナブル経営へと大きく舵を切った背景には、差し迫った経営危機があった。2009年、現代表が経営を引き継いだ当時、陣屋は10億円もの負債を抱え、EBITDA(税引前利益に支払利息と減価償却費を加えた利益)はマイナス6000万円という状況であった。バブル期には5億円あった売上も2億9000万円にまで落ち込み、廃業の危機に直面していた。

この危機的状況を打開するために、陣屋が選んだ道は、デジタル技術を活用した業務改革であった。しかし、単なるコスト削減や一時的な経営改善ではなく、長期的な視点での「持続可能な旅館経営」を目指した。「旅館を憧れの職業に」というパーパスを掲げ、従業員が誇りを持って働ける環境づくり、環境負荷を減らしながらも顧客満足度を高める仕組み、そして地域社会との共生を実現する新しい旅館経営のモデルを構築しようという考えのもと、同社のサステナブル経営へのシフトが始まった。

このように陣屋がサステナブル経営に取り組んだのは、単に倒産を回避するためだけではなく、旅館業界の古い体質や非効率な業務形態を根本から変革し、従業員・顧客・地域社会・環境のすべてにとって持続可能な事業モデルを創出するという明確なビジョンがあったからである。これは、経営者の「100年続いた旅館を次の100年も続けていくためには、今までのやり方では限界がある」という強い危機感と使命感から生まれたものであった。

◆具体的取り組み内容


🔼デジタル技術を活用した業務改革:陣屋コネクトの開発
陣屋のサステナブル経営の中核となったのが、独自に開発したクラウド型旅館管理システム「陣屋コネクト」である。経営再建のために「最初に雇ったのはエンジニア」と女将が語るように、デジタル技術を徹底的に活用する方針を打ち出した。

当時、旅館業界ではまだ紙の台帳による管理が一般的で、顧客情報の共有や業務効率化が進んでいなかった。陣屋でも「パソコンを使える従業員は、経営者を除けば1人しかいない」という状態。そこで、市販の高額な基幹システムではなく、Salesforceなどのクラウドサービスをベースに自社開発した「陣屋コネクト」システムを導入。
このシステムは、予約管理から顧客情報、社内SNS、売上管理、経営分析まで網羅し、タブレット端末を通じて全従業員がリアルタイムで情報を共有できる仕組み。

これにより、以下のようなサステナブル経営の基盤が構築された。
🔼ペーパーレス化の実現
紙の台帳や伝票が不要となり、大幅な紙資源の節約につながった。
🔼業務効率の向上
「言った」「言ってない」などの伝達ミスがなくなり、業務効率が向上。導入前の半分の従業員数で旅館運営が可能となり、人件費換算で年間約2,000万円の削減効果となった。
🔼マルチタスク化による人材の有効活用
従業員が複数の業務をこなせるようになり、「料理を運ぶ」「布団を敷く」といった単一業務だけに専従するスタッフをなくした。
🔼エネルギー消費の削減
業務の効率化と並行して、設備の省エネルギー化も進めることで、エネルギー消費の削減を実現。また、休館日を設けることで、エネルギー消費や廃棄物削減にもつながった。
🔼経営情報の透明性
陣屋コネクトを通じて経営情報を従業員と共有することで、「当事者意識」が醸成され、会社への帰属意識が高まっていった。
🔼社会的評価の向上
サステナブル経営の成功事例として外部から高い評価を受けることが、従業員の誇りやモチベーション向上につながっているという。女将は「お客様からお褒めの言葉をかけていただいたり、デジタル化の成功事例として視察を受けたりすることが、従業員のモチベーションにつながりました」と語っている。

陣屋コネクトの導入は簡単な道のりではなかった。「IDやパスワードを入力することも難しいという人が多く、同じことを10回以上聞かれたこともあった」と女将は振り返っている。しかし、粘り強く教育を続け、2年半かけて全従業員がシステムを使いこなせるようになったという。

◆働き方改革と人材育成面での取り組み


🔼週休3日制の実現
陣屋のサステナブル経営の大きな特徴として注目されるのが、旅館業界では異例の「週休3日制」の導入である。旅館業は年中無休で営業するのが一般的だが、陣屋は2014年にまず火・水曜日の2日間を休館日とし、2016年には木曜日を加えて3日間にした。そして2020年には就業規則を変更し、従業員の働き方を変形労働時間制に切り替え、それまでの8時間×5日勤務を10時間×4日勤務に移行。
この連続した休日により、従業員のワークライフバランスが大幅に改善された。
🔼人材の定着と育成
「教えては退社の繰り返しでは、教える側も疲弊してしまう」という課題が解消され、人材育成に注力できるようになった。
週休3日により、副業や自己啓発の時間が確保され、従業員が新しいスキルを身につける機会が増えた。実際に、副業で動画編集やSNS運用を学び、それを本業に活かす従業員も現れた。

週休3日制の実現を支えたのが、従業員の「マルチタスク化」であった。
「接客」と「調理」の2部門に組織をシンプル化し、接客部門のスタッフは、フロント業務からゲストリレーション、清掃の管理まで、調理以外のすべての業務を担当するようになった。「週休3日も接客・調理の少数メンバーで2交代のチームをつくることが前提であり、マルチタスクでなければ実現できませんでした」と女将は語っている。

◆その他の取り組み


🔼地域社会との共生:里山コネクトと地域観光の活性化
陣屋のサステナブル経営は、自社の経営改善だけにとどまらない。
培ったノウハウを地域社会に還元し、地域全体の持続可能な発展に貢献する取り組みも行っている。
地域共通DXシステム「里山コネクト」(22年開始)
これは陣屋コネクトで培ったIT技術とビジネスモデルを地域観光事業者の活性化に役立てるための地域共通プラットフォームで、地域の観光事業者に無償提供されている。「里山コネクト」の導入により、エリア全体での集客力強化、地域全体での活性化、販売チャネルの拡大などが実現し、地域観光の持続可能な発展に寄与している。
・「里山トラベル」
これは旅館に宿泊したお客様を地域の観光地や飲食店へ誘導し、地域全体が活気づく仕組み。女将は「地域の様々な事業者が連携し、新たな観光需要を生み出す仕組みを構築している」と述べており、地域社会との共生を重視したサステナブル経営の姿勢が表れている。

◆サステナブル経営がもたらした人材面での効果


陣屋のサステナブル経営の取り組みは、採用力の強化と離職防止という点で顕著な成果を上げています。
🔼採用
「旅館を憧れの職業に」というパーパスのもと、若い世代にとって魅力的な職場環境を整えることで、具体的数値は未公開だが、人材確保の競争力が大幅に向上したという。実際に「ホテル系の学校を出たある若手社員は、同窓生と会うたびに、連続して休めることを羨ましがられています」と女将は語っており、週休3日制などの先進的な取り組みが採用市場での差別化要因となっている。
🔼離職防止
陣屋の離職率は、サステナブル経営に取り組む前は33%でしたが、現在は3~4%にまで低下。これは旅館業界の平均を大幅に下回る数字である。
◆その他の成果と今後の展望
陣屋のサステナブル経営は、明確な数字として成果が表れている。倒産寸前だった旅館は、黒字化を達成し、旅館の稼働率は全国平均の約2倍となる76%に到達。また、IT導入前に比べ売上は1億円増加し、2018年には「日本サービス大賞」で総務大臣賞を受賞するなど、社会的評価も高まっている。

さらに陣屋コネクトは現在、400以上の施設で活用される外販事業に成長し、旅館業界全体のサステナブル化に貢献。施設の中には導入後1年で売上高が144%、粗利益も170%に達したところもあるなど、その効果は広く認められている。

今後の展望としては、「里山文化圏構想」による地域観光の活性化や、「緑屋プロジェクト」など世界的なデザイナーとの連携による新たな価値創造にも取り組んでいる。また、地域共通DXシステム「里山コネクト」の普及にも力を入れており、地域社会と共に持続可能な発展を目指す姿勢を強めている。

◆まとめ


陣屋のサステナブル経営は、単なる経営改善策ではなく、従業員・顧客・地域社会・環境すべてを視野に入れた包括的な取り組みである。この事例は、伝統産業においても、デジタル技術の活用と従業員中心の経営改革によって、持続可能な経営モデルが構築できることを示している。「旅館を憧れの職業に」というパーパスのもと、陣屋が切り拓くサステナブル経営の新時代は、日本の宿泊業界全体にとって、希望の光となっているに違いない。

注意書き:この内容は、該当企業を取り上げた複数の記事およびHPなどを私が個人的に読み、私自身が理解した内容を噛み砕いて発信しています。
上記記事に記載されている内容および企業の取り組みを保証するものではありません。

◆お知らせ

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