油まみれの工場から「ベストプラクティス企業」へ 〜ネジ製造の町工場再生の軌跡〜
目次
- ◆企業情報 株式会社キットセイコー
- ◆危機感から生まれたサステナブル経営へのシフト
- ◆具体的な取り組み内容
- ◆取り組みによって得られた効果
- ◆今後の取り組み内容や展望
- ◆まとめ
- ◆お知らせ
◆企業情報 株式会社キットセイコー
本社所在地:埼玉県羽生市
創業年月日:1940年2月
資本金:1,200万円
従業員数:23名
事業内容:特殊ねじの製造・販売
この中小企業が一躍その名を知られるようになったのは、2020年12月に小惑星リュウグウから地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された特殊ねじを製造したことがきっかけだった。しかし、宇宙事業との関わりは実に半世紀前から始まっていた。1970年には日本初の人工衛星「おおすみ」の部品製造に携わり、以来約80基の人工衛星に特殊ねじを納入してきた実績を持つ。
◆危機感から生まれたサステナブル経営へのシフト
当時の職人の多くが50代後半で、数年内に退職を迎える状況にあった。若手の育成システムがなく、技術の継承が途絶える危機に瀕していたことで社長は、「このままでは3年もすれば職人がいなくなる。技術が消えれば、会社は潰れてしまう」と感じたという。
その危機感から社長は、別の機械メーカーで2年間修業した後、2000年に25歳で家業に戻った。入社当時、正社員の職人はわずか9人。定年が間近に迫る職人たちから急いで技術を学ぶ必要があった。
しかし、課題はそれだけではなかった。社長は当時の工場を「機械も床も油で汚れており、納期も守られない」状態だったと回顧する。こうした複合的な問題を前に、社長はサステナブル経営へのシフトを決断した。それは単なる環境対応ではなく、「人」と「技術」を未来に継承し、持続可能な企業運営を実現するための改革だった。
◆具体的な取り組み内容
🔼マイスター制度による知恵の継承
社長が最初に直面した壁は、熟練職人の技能を若手に伝える仕組みの欠如だった。ねじづくりは職人の勘と経験に基づく作業が多く、その知識の多くは「暗黙知」として個人に蓄積されていた。
「考え方を教えてくれれば同じことを繰り返し聞かずに済みます。しかし、説明ができないため、別のねじをつくるときや材質が変わる時、同じ内容を聞くことになります」と社長は当時を振り返る。
そこで、職人全員から教えてもらった内容の根拠を自ら解明し、ねじ加工の基準寸法を算出する計算式を作成。暗黙知を形式知に変え、若手に教えられるようにした。
そこで、「マイスター制度」を導入。定年退職する職人を「マイスター」として嘱託で再雇用し、若手への技術伝承を担ってもらう仕組みを構築した。重要なのは、単に再雇用するだけでなく、「マイスター」という尊称を与え、本人が希望する限り働き続けられるようにした点だ。
「定年後も安心して働ける会社にし、現役の職人に長くいてもらう目的もありました」と社長は語る。また、あえてマイスターが出社しない日を設け、若手の自立を促した結果、活発に教えを請い、また教えてあげるという長期的な技能継承の形が実現した。
現在では、70代半ばのマイスターも在籍し、長年培った技能を若手に惜しみなく伝授している。この制度によって、世代を超えた尊敬と信頼の関係が構築され、技術の断絶という危機を乗り越えることに成功した。
🔼働きやすい環境づくりへの取り組み
技能継承と並行して社長が取り組んだのが、職場環境の改善だった。入社当時、工場は機械も床も油で汚れており、整理整頓もされていなかった。前職の経験から「工場は油で汚いところ」という固定観念を持たなかった社長は、終業後に一人で黙々と工場の掃除を始めた。
約1年後、従業員も掃除を手伝うようになり、やがて「油が床に飛び散ったらすぐ拭く」という習慣が定着した。また、ある時は工場内の全ての工具を通路に並べ、無駄な工具があふれかえる状況を可視化。これをきっかけに整理整頓の意識が社内に浸透していった。
「個人で使う工具類はすべて台車にそろえて機械のそばに置く、工具類は決まった場所に保管し、使用後は元の場所に戻す」というルールを確立し、整理整頓された状態を維持できる仕組みを作った。
また、納期管理や生産計画においても改革を行った。ベテラン職人は納期よりも品質へのこだわりが強く、最初は理解が得られなかった。そこで社長は発想を転換し、ベテラン職人には若手指導に特化してもらい、納期管理や生産計画は若手に任せる体制を構築。これにより納期遅延の問題も改善に向かった。
🔼時間外労働の削減と年間休日の増加
社長が入社当初は毎日2時間の残業が基本で、深夜までの作業が1カ月続くこともあったが、現在は1人平均月2時間程度にまで削減。
年間休日数も入社時より15日多い約120日に増やした。
これらの改革は、生産能力を考慮した受注制限や、繁忙期をつくらない生産計画によって実現された。
🔼企業文化の醸成
「お互い様」の精神を基盤とした職場文化の醸成にも力を入れた。子育て中の若手が休めば40〜50代がフォロー、介護のために40〜50代が休めば20〜30代がフォローするという相互扶助の関係が構築されている。
🔼ベストストッパー賞で品質管理の意識改革
キットセイコーの独自の取り組みとして特筆すべき「ベストストッパー賞」という制度だ。これは「よくこんなものを見つけた」と言われるほどインパクトのある不良品を発見した人を表彰するもので、毎月1人選び、年間MVPも選出する。
社長はこの制度を始めた理由を次のように説明する。
「検査員が製品不良を見つけると、作っている従業員は嫌な顔をします。仕事として不良を見つけたのに嫌な顔をされることで、検査員もネガティブな感情を抱きます。しかし、本来は評価されるべきなのにマイナスのイメージを持たれるのはおかしいことです」
この制度により、不良品発見を「失敗」ではなく「貢献」と捉える文化が社内に定着。品質管理の意識向上につながっている。
🔼「遊び場」がつくる一体感
社内コミュニケーションの活性化にも工夫を凝らしている。厚生労働省も評価した取り組みとして、社内に卓球台を設置し「遊び場」を作ったことが挙げられる。
「卓球は室内で手軽にできるスポーツ。初めてでも、やっているうちに結構上手になるものです。若い人もベテランも一緒に楽しめるのがポイントなんです」と社長は語る。
この卓球台の設置は単なる福利厚生ではなく、部署や役職を超えた社員同士の自然な交流を促進し、コミュニケーションを活性化させる効果をもたらした。さらに、会社負担でバーベキューなどの社内レクリエーションも定期的に開催し、パート従業員の子どもも参加できるようにすることで、家族ぐるみの関係構築を図っている。
◆取り組みによって得られた効果
こうした多角的な取り組みの結果、具体的数値変化はどこにも記載はないが、キットセイコーは様々な成果を上げている。
🔼社外からの評価が向上
まず、働き方改革への姿勢が評価され、2020年に埼玉労働局の「ベストプラクティス企業」に認定された。また、同年には「埼玉県シニア活躍推進宣言企業」にも選ばれている。
これにより、取材等も増え、企業価値の向上に繋がった。
🔼新規受注の実現
「はやぶさ2」のねじ製造が広く知られるようになったことで、新たな分野からの受注も増加。2017年には世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ1(F1)」の部品事業も開始した。これは宇宙関連の展示会で、F1マシンのねじが折れる問題を相談され、解決策を提案したことがきっかけだった。
🔼若手の採用強化と定着
現在では平均年齢30代の社員構成となっており、業界としては異例の若い平均年齢の企業と言われるようになった。
また、子育て中の女性パート従業員も増加し、多様な人材が活躍できる環境が整っている。
◆今後の取り組み内容や展望
社長は今後の展望について「従業員が20人いたら20通りの働きやすさを実現できる会社にしたい」と語る。全てを受け入れることは容易ではないが、20人程度の規模であれば「お互い様」の精神によって実現可能だと考えている。
また、ものづくりに喜びを感じてもらうことで、中小企業や工場のステータスを向上させたいという思いも強い。その根底には「人が活き活きする、明るいものづくりを実現したい」という信念がある。
同社はあえて機械化を進めず、工程の約3分の2を職人の手作業で行っている。これにより、微妙な加工が必要な特殊な案件にも対応でき、宇宙機器、F1マシン、原子力プラント、鉄道信号装置など高度な技術を要する分野での需要を獲得している。
◆まとめ
株式会社キットセイコーのサステナブル経営への取り組みは、単なる環境対応や社会貢献ではなく、「人」と「技術」を未来に継承し、持続可能な企業運営を実現するための総合的な戦略だった。高齢化する職人の技能を若手に伝え、働きやすい環境を整え、一人ひとりが活き活きと仕事に取り組める文化を醸成することで、町工場としての存続と発展を実現している。
特に注目すべきは、サステナブル経営によって社内の活性化だけでなく、新たなビジネスチャンスも創出された点だ。「はやぶさ2」や「F1マシン」といった一般には縁遠い特殊分野への進出は、技術の継承と人材育成があってこそ実現した成果と言える。
社長は入社当初、油まみれの工場で一人黙々と掃除を始めた。その小さな行動が、やがて社員の意識を変え、会社全体の変革へとつながっていった。このストーリーは、サステナブル経営において「トップの姿勢」と「地道な実践」がいかに重要かを示している。
キットセイコーの事例は、同様の課題を抱える多くの中小企業にとって示唆に富むモデルケースとなるだろう。「人」を中心に据え、技術継承と働き方改革を両立させながら、持続可能な企業経営を実現するための道標として、その取り組みは高く評価されるべきものである。
「宇宙を駆けるねじ」を作り続ける町工場の挑戦は、これからも続いていく。
注意書き:この内容は、該当企業を取り上げた複数の記事およびHPなどを私が個人的に読み、私自身が理解した内容を噛み砕いて発信しています。
上記記事に記載されている内容および企業の取り組みを保証するものではありません。
◆お知らせ
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